村瀬彰吾がつづる新選組話題を含む日記&エッセイ。

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石田散薬―――『人間土方歳三』より その2

  
新選組が壬生の屯所を引き払って、西本願寺の北集会所を屯所としたのは、慶応元年3月10日のことである。

嵐山で暑気払いをした後、新選組副長土方歳三は、早速、北集会所の裏手に筵を敷かせて、主だった隊士たちに命令した。
先ほど引き抜いてきた牛額草を、陰干しするのである。

それから、10日ほど経過した夏の暑い朝、
土方は、訓示の後、
「本日、ただいまから薬の製造にかかる。特別用のないものは手伝うように」

3,40人の隊士たちが、北集会所の裏側に集まってきた。
非番の者どもは、多少の所用があっても副長の命令を優先させなければならなかった。
あとのことを考えると、とても恐ろしくて、参加しないわけにはいかない。

「薬を作るのには、道具がいる。必要なものを集めなきゃならねえが、手際よく集めてきてくれ。
先ず、焙烙5基、焚き火用の火種、大きめの鋏30丁、薬研を、そうだな、5台かな」
副長は、右手でかき回すしぐさをしながら、
「そしてヘラ。―――それと、目の細かいざるだ。そして、焼酎を5升ほど。最後に、うどん粉と手拭い、3~4枚」

一刻ほどして、各方面に散らばっていた隊士たちが戻ってきた。
土方は、てきぱきと指示を出す。
「まず、大きめの石を積んで土台を作り、火を熾して5台の焙烙を乗せてくれ。その間、ほかの連中はそこの鋏を使って、干しておいた葉っぱをできるだけ細かく切り刻んでおいてくれ」

一通りできたところで、
「次に、そのへらを使って焙烙の中で炒るのよ。やってみろ」
時季的に、真夏である。
火を焚いている前で干した溝蕎麦を煎るのだから、たまらない。隊士たちは、上半身裸になって、額にねじり鉢巻である。
何せ、京都の真夏である。
朝から、湿気は多いし陽射しは強いはで、うだるような暑さである。汗がしたたり落ちてきて、褌がびしょ濡れだ。

隊士たちは、なんのためにこんなことやっているのか、よくわかっていない者のほうが多いのだが、なにしろ副長の命令なのだから、有無を言わずただ従うだけだ。
それでも、葉を煎じる良い香りがしてきた。

沖田も、土方と一緒になって、製造現場に立ち会っている。
「土方さんという人はね、気分屋でね、思いついたら、とことんやらなきゃ済まない気性なんですよ。やらされるほうは、たまんないですよね」
などと、隊士たちに同情してみせる。この時、副長の声が飛んだ。
「もうこの位でいい。炒りあがった葉を今度は、薬研を使って粉にするぞ。これには、コツがいる。葉っぱを舟形のほうに入れて、この軸の付いた円盤を内側に向けてひねるようにゴリゴリ回すのだ」
ここでも、沖田が口を挟んできた。
「あれ、土方さん、私がよく日野で見たつくり方とは違いますね。もう、終わりですか」
総司は、焙烙の中を覗き込んで、
「まだ、黒くなっていませんよ。それに酒もかけていない」
土方は、面倒くさそうに、
「総司、お前は余計なこと言うな。話が混乱してくる」

そして、機嫌を直して、
「まあ、それもそうだ。説明するか」
土方、焙烙の中の煎られた葉を一握りして、
「本当はな、石田散薬ってやつは、酒を振りかけながら、真っ黒になるまで煎るものなんだ。だがな、そこまでやっちまうと効き目がなくなっちまうんだ」
沖田が、疑問を挟む。
「えっ、土方さん、それじゃあ石田散薬ってものは、効き目がないってことになりませんか。だって、あの薬は、真っ黒ですよ」
「おめえって奴は、ほんとに口数の多い野郎だな」
続けて、
「――でも、その通りだ。黒くなるまで煎るとか、酒を振りかけるとかは効き目を薄くするためにしてることなんだ。あれをしなきゃ、毒が強すぎるんだよ」

新選組副長は、腰に手を当てて、歩きながら講釈を始めた。
「そもそも医薬なんてものは、体の弱っているものを目安にして作ってあるもんでな、強い毒性を含んでいる薬は禁物なんだ。だから、弱めなきゃならねえ。黒くしちまうなんぞは、ほとんど医薬とは言えねえくらいにしちまってると思っていい」
安富が聞いてきた。
「この、まだ、緑の色がたくさん残っている状態で止めましたが、ここで今作っている薬はかなり毒性が含まれているってことですか」
「そのとおりよ。ここにいる奴らは老人や子供じゃねえし、早く言えや仲間内で服用するわけだから、強くたって構いやしねえ。むしろ、聞きすぎるくらいのものを作っておくって算段よ」

日野の土方家では、この家伝薬を昭和22年まで製造販売していたとの記録が残っている。
同年の薬事法改正で無効、無毒として判定され、薬として売れなくなってしまったので、製造をやめてしまったものだが、何も石田散薬ばかりが製造中止になったのではなく、「黒焼き」そのものが薬品として認められなくなったのである。その中の一つに石田散薬が含まれていただけのことだ。

土方は次の指令を出した。
「薬研で細かく粉の状態にしたら、それをざるで振るう。下に落ちた粉を集めて、ここへ持ってきてくれ。それまでの間は、そうだな、宮川、お前うどん粉を練ってろ。一人じゃ大変だ、お前らも手伝ってやれ」
と、空いている隊士たちに声をかけた。

一斉に、うどん粉を練り始める者、煎った葉をふるいにかけている者に分けられたが、今度は土方自身が練り上げたうどん粉に粉末状に細かくされた溝蕎麦を混ぜ始めた。
そして、焼酎を口に含んでは、勢いよく霧吹きにしてかけている。

蕎麦で見ていた沖田がいぶかしがった。
「土方さん、いったい何を作っているんですか。私も日野育ちですが、そんなもの観た記憶、ないですよ」
「まあ、見ていろ。これが本当の石田散薬って代物だ」
力を入れてしばらくすると、だんだん鼠色になってきた。

「これで、出来上がりだ。――誰か、怪我してるやつはいねえか」
いないわけはない。こんな集団だから、絶えず誰かは怪我している。特に刀を使うからだろうが、切り傷が絶えない。
島田魁が叫んだ。
「おい、大石。お前確か、2,3日前の出動で怪我してたはずだな。こっち来て、見せろ」  

大石鍬次郎は、江戸でそもそも大工をしていたのだが、文久3年から始まった佐藤彦五郎の名主屋敷の普請に第九として携わってからの縁で、佐藤家と昵懇になり、剣術の腕がよかったことから、彦五郎が、元治元年十月、歳三のところに送り込んだものである。
人斬り鍬次郎とも呼ばれた人物で、長州はもちろん攘夷の志士仲間内で特に恐れられたのだが、明治3年に捕らえられ、伊東甲子太郎暗殺を追及され、刑死した。

土方は用意してある手拭いを細長く折りたたみ、その真ん中あたりに今煉った膏薬を塗り始めた。
土方にしては珍しく、面倒見の良いことである。大石の手を取って傷口に膏薬を当て、その後、その手拭いを縛ってやった。

一部始終を見ていた総司が、感心した。
「さすが、土方さん。そうすれば、確かに効きそうだ。私も、あの黒いもの飲んで、果たして効くのかなって疑問もってましたよ。しかも、酒で飲めって書いてある。ほんとに酒で効くのかどうか、どうも怪しい。今、土方さんが作ったそれ、確かに効きそうですね」
土方も調子に乗って応える。
「そうだろう、この薬はな、こうすりゃ効くんだよ。さっき言ったように、広く売るには、あれはあれで仕様がねえんだ。百姓家ってものは、代官に差し出すコメと、自分のところで食うコメは作る時から違うものを作る」
土方、朗々と演説をする。
「自分で食うものは、縁の下あたりに、米に限らず味噌や酒など、実にウメえものを隠してあるものさ。この薬も、一般に売るものと、テメエのところで使うものとは別にしてあるってわけよ」
(日野市に、東京薬科大学がある。そこの先生と地域の薬剤師会と共同で、土方家伝来の方法で石田散薬を作ってみた。真夏の作業で、したたり落ちる汗を拭き拭きの作業であったが、何度も行き詰ってしまった。するとある晩、歳三が筆者の夢枕に立ち、製法を教示してくれた。その夢物語を本稿で紹介させていただいた。)

おわり
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コメント
石田散薬づくり
石田散薬づくり、新選組フェスタ!薬科大学も巻き込み、当時を思い出しました。

日野宿本陣文書検討会でも来年五月に歳三の生まれた石田村で石田散薬づくりを行います。 人間 土方歳三は厚いので、再度読みこなしたいと思っています♪
2012/09/07(金) 02:32 | URL | munn #HVDXY222[ コメントの編集]
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村瀬執筆 時代小説
プロフィール

村瀬彰吾

  • Author:村瀬彰吾
  • 2004年大河ドラマ「新選組!」の決定以来、新選組特命主幹、日野市立新選組のふるさと歴史館館長を経て芸術文化担当として歴史に触れる毎日の生活を送っている村瀬彰吾のブログへようこそ!
    日野市在住。2006年に小説「人間 土方歳三」を出版しました。小説の詳しい情報や通販はH Pに。
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